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【DCON2020 本選ダイジェストレポート】 ものづくりの技術×ディープラーニングで評価額を競う、高専生の熾烈な戦い

2020年8月22日(土)日経ホールにて、DCON2020本選が開催されました。

今回本選に出場したのは、日本からの10チームとモンゴルから1チームの計11チーム。コロナの影響を受け、各チームとWebで中継を繋ぎながらオンライン開催の本選となりました。

実際に集まって準備を進めることが難しい状況下であり、中にはコロナ禍の影響で事業案の変更が必要だったチームもありましたが、どのチームもレベルの高い最終プレゼンを準備し本選に挑みました。

ステージ上には、実行委員長として東京大学大学院教授松尾豊氏、司会にタレントの小島瑠璃子さん、音楽クリエイターのヒャダインさんほか、審査員の皆様をステージ上にお迎え。オンライン中継を介し、事業化も想定して行われた白熱のプレゼンの模様をダイジェストレポートとしてお伝えします。

受賞結果とプレゼンの概要

本選当日、オンライン中継を介してプレゼンに挑んだ11チームの様子

熾烈なプレゼン合戦の末に、最優秀賞には東京工業専門学校の「プロコンゼミ点字研究会」が選ばれる結果となりました。副賞として起業資金100万円と、日本ディープラーニング協会より若手奨励賞が授与されました。入賞チームを中心に、プレゼンの様子をご紹介します。

1位 東京工業高等専門学校/プロコンゼミ点字研究会

企業評価額:5億円 投資総額:1億円最優秀賞・若手奨励賞受賞

プレゼンしたのは、視覚障害者の方が自身で印刷物の内容を把握したり、自分が点字で書いた書類を墨字として印刷するための自動点字相互翻訳システム「:::doc(てんどっく)」。

点字の文書を撮影しアップロードすると、ディープラーニングを活用した点訳エンジンがサーバー上で自動で点訳(点字を翻訳)。点字ディスプレイや点字プリンターで出力し、墨字(点字以外の文字)で書かれた文書を読むことができます。視覚障がい者の方も自身で使えるよう、操作時は音声でガイドされます。

技術的には、ディープラーニングの最先端言語モデルである​「BERT」​を使用。ただ点訳するだけではなく、点訳後には長くなってしまいがちな文章を要約する機能を取り入れています。ビジネスモデルとしても、自動点訳が上手くいかない場合には人力での点訳も提供できるなど実用的を意識したサービスとして提案されていました。

印象的だったのは「利用者である視覚障がい者の課題を、自分たちがテクノロジーの力で解決する」という熱意。課題解決に本気で挑んだからできた、説得力のあるプレゼンでした。

審査員からは「点字という非常に深い一方で、取り組む競合が少ない課題を解決しようとしている。競争のない領域で戦うのは正しく、点字は世界共通語のため、いきなりグローバルを目指すことも可能なのではという点も評価した。」との評価を受け、最優秀賞・若手奨励賞の受賞となりました。

2位 鳥羽商船高等専門学校/NITTOBA,SiraisiLAB

企業評価額:5億円 投資総額:7000万円 KDDI賞・コノカミノルタ賞受賞

ミカンをはじめとした農作物を高品質にするAIを使った自動水やりシステム「AIウォーター」で、第2位となる評価額と2つの企業賞を受賞しました。

AIウォーターは、樹体画像から水分ストレスを測定して糖度の高いミカンの生産をサポートするスマートフォンアプリ「MIKAN」と、スプリンクラーを用いてミカンの日焼けを防止する「ORANGE」の2つのシステムで構成。高糖度のミカン生産と農作業の省力化を実現します。複数のAIを組み合わせた高度なシステムで地元の課題を解決し、実際に作物の糖度が向上した実績が審査員に評価されました。

ビジネスプランとしては、農家にとって導入もしやすいサブスクリプションモデル。AIの精度向上に不可欠なデータ収集もプランに含めた、解像度の高いプレゼンを披露しました。

3位 佐世保工業高等専門学校/佐世保高専魚市場チーム

企業評価額:5億円 投資総額:5000万円

ディープラーニングを用いた高速魚種選別システム「次世代!仕分人」で、魚市場における課題解決に挑んだチームです。巻き網漁で取った魚を選別する作業を自動化することで、収益性の向上と人手不足の解消を解決するビジネスプランを発表しました。

プレゼンで特に秀逸だったのは、ディープラーニングを効果的に活用して、魚市場に収益をもたらす課題解決方法としていた点です。魚種分類用ディープラーニングで行うのは、アジ・サバ・その他の3クラスのシンプルな分類。たったそれだけの分類で効果があるのかと思いきや、魚市場ではアジ・サバだけで漁獲高の8割を占めるため、3クラス分類ができれば魚市場の人手不足解消・収益性向上に十分なインパクトがあります。

魚市場にとって導入メリットがしっかりとあるため、仕分け装置は高利益率での販売が期待できることもビジネスとして評価を受けました。

ほか企業賞受賞チーム

そのほか企業賞として、アイング賞を長岡工業高等専門学校/長岡高専プレラボチーム、矢崎賞を沖縄工業高等専門学校/Fishlearning2.0チームが受賞。

表彰時には企業から高専生へ「すぐにでも共同開発をはじめたい」「ぜひ就職を検討してもらいたい」などの提案がされる場面も。最優秀賞受賞チームだけではなく、大会全体のレベルの高さがうかがえる表彰式となりました。

大会を総括して

結果として、上位3チームがプレ大会優勝校を上回る5億円の企業評価を受けるハイレベルな内容で、オンライン開催ながら大いに盛り上がる第1回大会となりました。

大会を総括し、実行委員長の松尾豊氏は以下の様にコメントしました。

『現場の技術者が様々な技術を組み合わせ、新しい価値を生み出す創意工夫をし、課題を解決する』というのは経済成長の1つの基本であり、日本の強みでもあると思っています。高専生こそ、それができる可能性をもっている。DCONでは先輩起業家がメンターとして高専生を指導します。起業家の卵を育てていく場はコミュニティとして非常に重要であり、先輩に後輩がどんどん続いていくといった流れを作っていきたいと考えています。」

プレ大会のDCON2019出場チームからは、現役高専生が既に起業しています。DCON2020からも、出場経験をもとに起業するチームが現れるのではと注目が集まります。今後もディープラーニングの活用を担う人材の輩出に繋がる場として、次回DCON2021にもご期待ください。