DCON2022を振り返って

高専生はAI成長期を担う先駆者であれ
道を切り拓き、道標を立てることが役目だ

ウエスタンデジタル合同会社
プロセス技術部 シニアディレクター
鏡直芳氏

高専DCONは学生の成長を促すだけではない
ディープラーニングの発展に大きく貢献している

――まずは、高専DCON 2022の内容や優勝校・上位校についた企業評価額など、今回の結果などを踏まえた感想をお聞かせください。

毎年、大きな驚きと強い感動を覚えます。今年の高専DCONは昨年以上の高度な作品と事業計画に歎美(たんび)の念を感じました。入念な調査による課題構築とその解決方法へのあくなき挑戦、さらには市場規模や業界動向への深い理解を基にした的確かつ具体的な事業計画と、いずれも素晴らしい内容でした。本選では最優秀賞をはじめ、10チームに順位がつきましたが、上位入賞チームでなくとも全チーム共に素晴らしいアイデア、理にかなった事業計画であったことは、今年の特徴だったのではないでしょうか。

当社は高専DCON2022において、豊田工業高等専門学校「チーム早坂・大畑Lab」にウエスタンデジタル賞を授与いたしました。同チームは「熱中症」という、身近で、しかし危険度の非常に高い病を「表情」で診断するシステムを発明しました。建設業や製造業に従事する人々への発病リスクを軽減することを目的として開発された非接触型のシステムは、データ活用が難しいとされる「人の表情」を、周囲の温度や湿度と組み合わせてディープラーニングを行うというものでした。課題も少なくない「顔画像を活用したディープラーニング」に、あえて挑戦した豊田工業高専チームの努力とその苦労を称えたいと考え、ウエスタンデジタル賞の授与を決めました。

若く、そして高い可能性を持つ高専生が、高専DCONを通じて起業を意識しながら作品を生み出すことは、学生としての成長を促すと共に、将来的なディープラーニングの発展に大きく貢献することになると感じています。当社はこれからも、高専生たちを応援していきたいと考えています。

――高専DCON2022のどのような点に魅力を感じ、ご協賛いただいているのでしょうか?

私たちウエスタンデジタルは、データを保存するストレージのグローバルリーディングカンパニーとして、日々世界中で生成されるデータのインフラを提供しています。データは今やあらゆるところで活用され、今まで人間が成し遂げられなかった事をAI(人工知能)によって可能にし、わたしたちの生活を豊かに、そしてより幸せにしてくれます。

高専DCON2022は「日々増大するデータの活用を促進する」「ディープラーニング×ハードウェア」そして 「未来ある高専生エンジニア・高専生事業家を支援する」 というテーマを掲げています。当社は高専DCONがもつ素晴らしい理念に賛同し、協賛しています。また、データがもたらす可能性を見出し、社会に役立てていただくという高専DCONの活動を、今後とも支援していきたいと考えています。

――御社のAIを活用した事業やお取り組み、今後のAI(人工知能)活用の展望などをお聞かせください。

私たちウエスタンデジタルは、SDカードやスマートフォンなどに使われているフラッシュメモリーと、PCやデータセンターなどで活用されているハードディスクドライブ (HDD) という双方のストレージを開発、生産している世界唯一のデータインフラストラクチャー企業です。私が所属するフラッシュメモリ事業部はキオクシアとのジョイントベンチャーで、フラッシュメモリーの開発と量産を、日本を拠点として運営しており、全世界の1/3以上をここ日本から世界中のお客様へお届けしています。

三重県四日市市と岩手県北上市にある世界最先端の半導体工場には、半導体製造装置が数千台という規模で設置されています。半導体製造装置はIoT技術の塊のようなもので、多くのセンサーから検出されたデータが出力されデータサーバに蓄積、その大量のデータと製品の検査データを組み合わせ、AIを活用することでの高度なプロセス制御や異常検知を推進しています。

また、当社では”Create what’s next”をテーマとして、研究所や企業とデータの可能性を創造する取り組みを行っています。アメリカのスタンフォード大学とマンモグラフィー画像診断の精度向上に取り組んでおり、また、ブラックホールの発見で有名なEvent Horizon Telescope Projectも支援しています。データに関わる当社の取り組みは、ディープラーニング、IoT、AIに限らず、今後ますます増えていくものと確信しています。

――御社と高専に関するトピックスや、高専出身社員の話題があればお聞かせください。

当社では、高専から大学院まで進学し、博士号を取得して入社された方も多く活躍しています。高専出身の方は材料や機械、情報、電気、化学などの専門分野をよく勉強され、実践的で結果をしっかり意識して仕事を行う優秀なエンジニアが多いという印象があります。

素晴らしいアイデアと理にかなった事業計画
10チームすべてに事業化の可能性を感じた

――社会課題の解決に向けたAI活用にも期待が集まっています。御社が期待するAI活用のあり方とはどのようなものなのでしょうか? また、御社でお取り組みになっている事例などがございましたらお聞かせください。

AI、ディープラーニング技術の開発には、データを収集するカメラやセンサー、収集された膨大な情報を保存するデータストレージ、高速に情報処理を行うプロセッサ等がフル活用されます。こうした環境下で、わたしたちウエスタンデジタルは世界のストレージデバイスの研究開発をリードし、ディープラーニング技術を応用した最先端事業を促進しています。より多くの企業がAIの可能性を、そしてその重要性をいま以上に理解し、どの分野においてもAIに精通したエンジニアが活躍できるような環境が整うことを期待しています。その結果として、日本のAI技術が発展するとともに、優秀な人材の輩出にも繋がると考えています。このような意味でも、高専DCONは非常に大きな役割を担っているのではないでしょうか。

また、新たな活用方法の創出という観点からは、我々の生活を便利にするための身近な所から、Industry4.0で示されているような産業への活用、また、SDGsに挙げられるような地球規模の問題解決にも、幅広くこれまで以上にAI技術が活用されることを望んでいます。

――昨年より「DCON Start Up 応援1億円基金」が始まり、高専DCON出場チームの未来を見据えた取り組みが行われています。今後の高専DCONに期待する点などがございましたらお聞かせください。

わたしたちは今回、最終選考会に出場した10チームすべてに作品の優秀性と事業化の可能性を感じました。優秀賞や技術賞など、確かに順位がつきましたが、上位入賞チームのみならず全チーム共に素晴らしいアイデア、理にかなった事業計画であったことが、今年の特徴だったと考えています。「DCON Start Up応援1億円基金」は、まさに今年の参加チームみなさんに適した基金なのではないかと感じました。これからも、未来の日本を担う高専生たちをぜひサポートしていただきたいと思っています。

――最後に、高専生たちへ向けたメッセージをお願いします。

DX(デジタルトランスフォーメーション)化が確実に進んでいく時代背景とコロナ禍により、現代社会は大きな転換点を迎えました。そして、わたしたちはその大きな変化を受け入れ、いま、まったく新しい生き方や働き方が基準化され、「ニューノーマル」はもはや「ニュー」ではなくなりました。

高専生のみなさんは、AIの成長期を支える重要な時代を担う先駆者です。すでに敷かれた道を歩くのではなく、新たに道を切り拓き、自ら道標を立てていくのがみなさんの役目です。自分自身の可能性をいま以上、さらに高められるように、AIのみならず様々な技術やビジネスモデルに好奇心を持って触れる機会を増やしてください。そして失敗を恐れず、失敗から学びながら、道を切り開いていって欲しいと願っています。

※四日市工場は、ウエスタンデジタルコーポレーションとキオクシアコーポレーションが共同で運営しています。

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