DCON2022を振り返って

幅広い視野と複眼的な視座を身に付け
技術で社会に貢献できる人財に

AGC株式会社
広報・IR部長 
小川 知香子氏

高専生が問題解決に取り組む真摯な姿勢に
経営層をはじめ多くの社員が共感

――まずは、高専DCON 2022の内容や優勝校・上位校についた企業評価額など、今回の結果などを踏まえた感想をお聞かせください。

それぞれの学校の地の利を活かしながら、地域に暮らす人々や社会の課題解決に挑むテーマが多く見られ、回を重ねるごとに技術やビジネスプランの水準が上がっていることを実感しています。

当社は、AI(人工知能)やVR(仮想現実)など様々な技術を組み合わせ、キクラゲの収穫作業を自動化する提案をした大島商船高専の大島商船 農業支援研究会にAGC賞を授与させていただきました。同チームの作品は、素材メーカーとして多様な素材やソリューションを組み合わせ、経済的価値のみではなく社会的価値の創出を追求する当社の経営と相通じるものがあると考え、高く評価させていただきました。

――高専DCON2022のどのような点に魅力を感じ、ご協賛いただいているのでしょうか?

当社は昨年の高専DCON2021から協賛し、高専生たちの作品を拝見しています。どのチームのビジネスプランも自分たちの身近なところでビジネスの芽を見出し、そこにAIを上手に活用している点、そして、発想がユニークで、環境や健康といった社会が直面している大きな問題の解決に挑んでいる点を高く評価しています。それとともに、学生の皆さんの真摯な取り組み姿勢には、経営層をはじめ多くの社員が共感しています。

このような点から、今年の高専DCON2022 にも継続して協賛させていただくことにしました。

――御社のAIを活用した事業やお取り組み、今後のAI(人工知能)活用の展望などをお聞かせください。

当社では、製造設備の安定稼働、製品品質の向上、材料・組成開発など、ものづくり企業の根幹となる領域はもとより、熟練技術者の技能伝承などの領域でもAI活用を積極的に進めています。

AIによって業務を効率化したり、生産性を高めることはもちろん、素材メーカーとして競争力を高めていくこと、社会やお客様に対して経済的価値にとどまらず、社会的価値をも提供していくことといった領域でも、今後は積極的にAIを活用していきたいと考えています。

――御社と高専に関するトピックスや、高専出身社員の話題があればお聞かせください。

当社には、現在高専から入社した社員が約180名在籍し、ものづくりや製品開発など、素材メーカーの根幹となる中心的な領域で広く活躍しています。なかには社内に50人しかいない上級データサイエンティストとして、ガラスの生産プロセスの改善・進化に取り組んでいる社員もいます。

また、昨年は、高専DCON2021で最優秀賞を獲得した福井工業高専 プログラミング研究会、AGC賞を授与した鳥羽商船高専 ezaki-labのメンバーから、それぞれの取り組みを社員に向けて紹介していただく機会を設けました。大勢の社員が参加し「発表内容に感心した」「感銘を受けた」との意見が多数ありました。若い新鮮な発想を間近で聞くことで、社員のモチベーション向上につながっています。今年もこのような機会を設けたいと考えています。

若い新鮮な発想で技術を活用したビジネスに挑戦する
そんなきっかけの場が高専DCONであってほしい

――社会課題の解決に向けたAI活用にも期待が集まっています。御社が期待するAI活用のあり方とはどのようなものなのでしょうか? また、御社でお取り組みになっている事例などがございましたらお聞かせください。

AIが社会課題の解決に貢献できる領域はたいへん広いと考えています。

当社は、中期経営計画『AGC plus-2023』における主要戦略の一つに「サステナビリティ経営の推進」を定め、素材イノベーションにより社会課題解決に貢献することを掲げています。その一環として、AIを駆使して優れた安全性・洗浄力を維持した上で、地球温暖化係数(GWP※)の圧倒的に小さな、環境対応型次世代新冷媒・溶剤の開発に取り組んでいます。 

このような、素材メーカーとしての経済的価値にとどまらず、社会的価値を創出していく取り組みに、今後もAIを積極的に活用していきたいと考えています。

※Global Warming Potential(地球温暖化への影響を示す係数。自然冷媒の一種である二酸化炭素を基準に、そのガスがどれだけ温暖化する能力があるかを表した数字のこと。CO2のGWPを1とする)

――昨年より「DCON Start Up 応援1億円基金」が始まり、高専DCON出場チームの未来を見据えた取り組みが行われています。今後の高専DCONに期待する点などがございましたらお聞かせください。

日本は欧米と異なり、まだまだ起業のハードルが高いと認識しています。「DCON Start Up 応援1億円基金」には、ぜひ起業のハードルを下げ、若い力を育む土壌としての役割を果たしてほしいと考えています。

日本企業のものづくり、研究開発の力を高め、グローバル市場での競争力を向上させる上で、AI技術は欠かせません。高専DCONが、高専生にとってそうした技術を活用したビジネスに若い新鮮な発想でチャレンジするきっかけになることを期待しています。

――最後に、高専生たちへ向けたメッセージをお願いします。

AIはとてもパワフルな道具ですが、それが大きな価値を生むのは、人間の側に実現したい明確なビジョンがあってこそ。未来を担う皆さんには、何よりも、大きな夢や目標を抱いてほしいと考えています。構想力を養うために、検索して得られる即席の知識に頼るのではなく、授業などを通して体系的に学び、自らの教養として蓄え、そして深く考えることを大切にしてください。

同時に、高専の特徴でもある、膨大な量の実験から手を動かし、やってみる感覚を養うことも重要です。そうすることで、世の中の大きな変化に、技術と教養で立ち向かう高い志を持ち、技術で社会に貢献することのできる人財になるための幅広い視野、複眼的な視座を身に付けてほしいと考えています。

そうした皆さんと、当社で一緒に働けることを、楽しみにしています。

© DCON 2022