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高専DCON2022本選アフターレポート vol.2

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高専生の日ごろの学習・研究の成果をベースとし、ディープラーニングを活用したビジネスアイデアを競うコンテスト「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)」。第3回となるDCON2022の本選は、例年以上に白熱の様相を見せていた。前半を終え、プレゼンテーションを終えたすべてのチームが企業評価の対象となるなか、後半5チームはどのような発表をし、そして最終審査ではどのような結果が叩き出されたのか。プレゼンテーション後半から結果発表までをレポートする。

明石工業高等専門学校 Akashi intelligence 作品名:R☆AI☆NNER(ライナー)
メンター さくらインターネット 代表取締役社長 田中邦裕氏

後半最初のプレゼンテーションは、明石高専のAkashi intelligence。登壇時にメンターの田中氏を含めたメンバーがポーズをとるパフォーマンスを行い、チームとしての統一感を示した。田中氏はチームを「真面目で賢く、楽しいチーム」と評し、アピールポイントとして以下のように述べた。

「作品の面白さは、市場規模が大きなところで勝負しようとしている点。様々な市場が絡むところにチャレンジしようとしている。とても大きな可能性を秘めたチームだ」

Akashi intelligenceのテーマは「スポーツ ✕ AI で健康長寿社会をつくる!」。少子高齢化により「人生100年時代」と呼ばれる昨今。健康寿命を延ばすためには、自力歩行が可能な運動レベルを可能な限り長く保つことが重要になる。そのような点に着目したメンバーは、より長く自分の足で歩けるようになる作品「R☆AI☆NNER」を制作した。

「R☆AI☆NNER」は使用者の靴のインソール部分に体重の推移を読み取るセンサーを搭載。センサーにより得られたデータを無線でスマートフォンに送信、ディープラーニングにより着地を分析する。分析結果から運動姿勢のアドバイスを行うサービスだ。対象とする消費者は将来の健康寿命増進に興味を持ち始める40~60歳。販売開始時点では競合他社と比較しても安価な3000円で提供を始め、将来的には無料での配布を予定している。

ここまでの説明だけでは、ビジネス的に成立するのかが疑問に感じる。しかし、Akashi intelligenceが狙うのは、ディープラーニングにより得た分析を用いた、より多角的な事業展開だ。「R☆AI☆NNER」は使用を繰り返すごとにデータ精度が向上する。パーソナライズされたデータ提供が可能となり、それにより有料の追加機能をサブスクで付与することができる。

その他、収集したデータや分析結果を医療・研究機関に販売するプラットフォーム事業も計画。人工衛星による地理情報システムと「R☆AI☆NNER」によって得たデータを組み合わせることで、より高度な予防医療のソリューションを展開する予定だ。将来的には医療保険の適用を視野に、予防医療、データ取得、健康にアプローチするアイデアによって、将来的に売上100億円の企業を目指す。

ディープラーニングを活用したプロダクトだけでなく、将来的な発展性を示したAkashi intelligence。審査員からの質問も、プロダクトの優位性やビジネス展開など幅広い視点から投げかけられるものとなった。結果として、企業評価の意思表示は1名、松本氏が名乗りを上げた。松本氏は「世界中の足元のデータを活用するというスケールの大きさに感心した」と評価した。

大島商船高等専門学校 大島商船農業支援研究会 作品名:New Smart Gathering
メンター: jig.jp 取締役会長 福野泰介氏

大島商船農業支援研究会はプロコンや起業家甲子園にも出場する、いわゆる強豪チームだ。DCON2022に「殴り込みに来た」というメンバーたちの表情には、自信がみなぎる。メンターの福野氏は初出場ではあるものの、自身は福井高専出身。高専生の実力、さらには高専生活を肌で知る人物だ。

大島商船農業支援研究会がフォーカスしたのはキクラゲ生産者。湿度95%、温度40℃にもなる厳しい環境下、作業の担い手の中心は高齢の生産者。過酷な労働環境に加え、収穫に経験を要するキクラゲ生産者は高齢化と慢性的な担い手不足をもたらしている。これはキクラゲ生産のみならず、農業のあらゆる分野で深刻化している課題だ。

そこで、大島商船農業支援研究会が提案するのが、ロボットアームとカメラ、そしてVRを駆使したキクラゲの収穫支援システム「New Smart Gathering」だ。本作品は、夜間にロボットアームが菌床を撮影し、作業場に送信。生産者は朝に送信された撮影画像を確認、独自開発したVRアプリケーションにより、遠隔操作で収穫するキクラゲの選択を行う。VRによる収穫選択を確定させると、工場では自動収穫が開始される。収穫が終了したロボットアームは、再び菌床の撮影を開始し、翌日の収穫に向けた体制を整えるシステムになっている。

会場では、実際のキクラゲの収穫の様子を収めた動画が流れた。ロボットアームは丁寧な収穫を行うだけでなく、菌床に回り込み細かい箇所の収穫も可能だ。VRアプリケーションには、ディープラーニングを活用した収穫判断アシストシステムを搭載。経験が浅い生産者であっても、的確な収穫選択を可能にした。本作品は生産者に体験してもらい、好評を得ているという。

「New Smart Gathering」が狙うキクラゲ市場は国内で103億円、アジアやヨーロッパなどの市場を加えると1140億円になる。その市場でシェアを獲得するために考えたのが、農作物の「ユニット化」だ。ユニット単位での管理は収穫精度の向上に加え、データベースによる管理が容易になるメリットがある。さらに、工場内の移動方式は比較的安価な吊り下げ式を採用。生産者は13カ月で導入コスト分を償却、4年で2500万円の利益をもたらす計画だ。

「New Smart Gathering」の販売計画は初年で20セット販売。5年目で252億円の売り上げ、9億円の利益獲得と、飛躍的な成長を狙う。さらに、同作品はあらゆる農作物への転用を見込み、市場規模はさらに拡大していく予定だ。さらに、VR収穫選択の3Dモデル化を進めることにより利便性向上を狙う。将来的には自動栽培施設を複数組み合わせて自動植物工場を確立、世界に誇る日本のスマート農業の実現を目指す展望を示し、プレゼンテーションを締めくくった。

生育確認から収穫までのプロセスの完全自動化により、生産者の負担を大きく削減するシステムのみならず、未来を見据えた事業計画を示した大島商船農業支援研究会。ハードウェアと人力との作業効率の差異やキクラゲを選定した理由などを投げかけられたが、メンバーは的確に回答。審査員の5名全員が企業評価の意思表示を示した。仁木氏はキクラゲという採算性の高い農作物からアプローチしている点を評価。「将来的には生産者への販売だけでなく、自身が生産者側に回れるほどになることもできる」と絶賛した。

香川高専詫間キャンパス  Tutelary 作品名:健康状態見守りシステム -NanShon-
メンター:ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター & パートナー 折茂美保氏

香川高専詫間キャンパスからは2チーム目の登壇となるTutelary。メンターの折茂氏はチームを「すごく真面目に取り組んでいて、指摘した点はしっかりブラッシュアップして返ってくる。高専生ということを忘れて、仕事仲間と話すときのようにメンタリングをしていた」と評した。数々の切磋琢磨と折茂氏とのメンタリングの中に磨き上げられた作品への自信を胸に、どのようなプレゼンテーションが行われるのか、期待が高まった。

Tutelaryが着目したのは日本の高齢化と介護の問題だ。AIにおけるシンギュラリティが起こると予測される2045年、日本では高齢者人口は300万人増加し、逆に労働生産人口は1600万人減少すると予測され、介護の崩壊が危惧されている。メンバーが介護現場のヒアリングを行うと、既に慢性的な人手不足により、要介護者の見守りに限界を迎えている実情が浮き彫りとなった。さらに、既存の見守り支援機を調べると、使用範囲が狭く、精度にも課題が残ることが判明したという。

そのような課題解決のため、Tutelaryが提示した作品が「健康状態見守りシステム -NanShon-」(なんしょん=香川の方言で「なにをしているの?」の意味)だ。同作品は香川高専が持つ特許技術である好感度呼吸センサーとAIを活用した見守りカメラを使用したシステム。呼吸センサーとAIカメラの測定データをAIで分析し、異常を検知した場合アラートを出す仕組みだ。カメラ、センサーの併用により、居室だけでなく施設の内外での適用を実現している。

販売価格の削減にも配慮した。呼吸センサーは安価で高感度なPVDF圧電フィルムを使用することで1台約5万円、AI見守りカメラはWebカメラとAIの使用により約10万円まで抑制可能。また、顧客のニーズに応じた提供サービスも選択できるようなメニュー提示も行うという。初年度はまず無償提供を行い、多くの顧客に使用感を確認してもらうとともに、レビューや見守りデータを提供してもらう。2年目以降にサービスを向上させたうえで販売を開始する。ターゲットとするのは介護の高い入居者を抱える特別養護老人ホームやグループホームで、各自治体からの補助金に絡ませることで、香川、四国、全国へと順次導入を進めていく。2027年には西日本地区での導入を完了することで、同年に売上32億円、利益12億円まで成長させることを目指す。将来的には自宅介護への参入、そして「NanShon」を介護先進国日本発の技術として世界に提供するという展望を示し、プレゼンテーションを締めくくった。

審査員からは、既存システムとの連携や、施設側だけでなくセンサーを装着する要介護者の装着感、サービスを選択し単独使用した際のユースケースなどが質問された。特に目を引いたのは、郷地氏から投げかけられた装着感に関する回答。メンバーはジャケットをまくると、そこには呼吸センサーが装着してある。実はメンバーは呼吸センサーを装着した状態でプレゼンテーションに臨み、装着に違和感がないことを示して見せたのだ。

質疑応答の場で会場をどよめかせるアピールを行ったTutelaryに、企業評価の意思表示をした審査員は2名。その内の一人、川上氏は「介護施設ではこういったことがかなり課題視されている。その点で市場性がある」と評価した。

沖縄工業高等専門学校 美ら海ペッ取ラーズ 作品名:ポントス
メンター:Shiftall 代表取締役CEO 岩佐琢磨氏

沖縄高専もプレ大会から本選出場を続けるDCON強豪校の一角を担う高専だ。沖縄高専チームの特徴は、地元沖縄の環境、特に海洋保護に着目し、沖縄発で世界へとビジネス展開を図る作品を発表しつづけている点にある。今回はどのような課題解決に向けた作品を打ち出すのか注目された。メンターの岩佐氏は「面白いものが見せられるとワクワクしている。現状を良くするというだけでなく、未来の街をつくる大きな話。楽しみに聞いてほしい」を作品への自信を語った。

美ら海ペッ取ラーズが着目したのは、海洋ごみの問題。メンバーは当初、海中のごみをロボットで拾うことを検討していた。しかし、海洋ごみの問題を調べていくうち、実は海洋ごみの8割はビーチや公園、さらには商業施設などから発生した「街のごみ」であり、海洋ごみの根本解決には陸地から発生するごみ問題を解決する必要があると気付いたという。ヒアリングを行ったところ、課題となっているのは、人手不足により清掃が不十分、ゴミ箱の数が少ない、清掃への予算不足の3点であることが判明した。

そこで、美ら海ペッ取ラーズが考案したのは「人がいないなら、ロボットで行えばいい」「予算がないなら集めればいい」というアプローチだ。それが集約された作品が「ポントス」だ。同作品はディープラーニングを活用したごみ識別を行うロボットが自動でごみを回収するほか、ごみ箱としても使用可能で、来場者専用アプリによる呼び出し機能もある。これにより、人手不足とごみ箱の不足を補える仕組みだ。ごみの識別精度は高く、技術的に難易度の高い透明なペットボトルも識別、回収を行える。

「ポントス」の収益源はサイネージによる広告収入で、先述のような行楽地には機体を無償で提供する。広告を出稿する企業には、AIによる画像識別機能により、サイネージを見る人との関連性の高い広告表示が可能というメリットを付与した。広告料金は施設規模に合わせて3通りのメニューを設定。5年目で全国展開を行い、23億円の売上達成を目指す。

ごみ問題をテクノロジーで解決しながら、清掃予算の少ない行楽地の課題をビジネスモデルで解決する。三方よしの作品を提示した美ら海ペッ取ラーズに対して、企業評価の意思表示をした審査員は3名。優れたアイデアが評価される一方で、技術的な課題に指摘が入った。それでも「ビジネスモデルをブラッシュアップする必要性を感じたが、必ずニーズがある」(郷地氏)と、将来性を期待する声が上がった。

一関工業高等専門学校 Team MJ 作品名:D-Walk
メンター:ABEJA 代表取締役CEO 岡田陽介氏

「メンタリングの際、わざと困るような質問をした。すると、次に会うときにこちらを唸らせるようなフィードバックが来るチームだった。ビジネスモデルにどんどん技術がフィットしていき、最終的には素晴らしい作品になった。私自身が明日から契約したいと思えるサービスだ」

メンターの岡田氏は、このように太鼓判を押すTeam MJの作品のテーマは、認知症予防。

2025年には高齢者の5人に一人が認知症を罹患するといわれる現在、認知症はすでに社会問題になっている。その中で、メンバーが着目したのが「MCI(軽度認知障害)」。MCIは認知機能が低下した状態だが日常生活には支障がない状態のことで、放置すると認知症へと移行してしまうが、治療を行えば40%の確立で治療可能といわれている。

Team MJが提案するソリューション「D-Walk」は、腰に取り付けたスマホとインソールのセンサーにより歩くだけでMCIを検知。さらに見守り機能を付加することで、離れた家族が親の健康を見守ることもできるサービスだ。「D-Walk」は歩行時の加速度や角速度情報からMMSE(ミニメンタルステート検査。認知症が疑われる場合に行われる検査)スコアを予測。高齢者に実際に歩いてもらってデータを得た結果、MCI判定の正解率は85.5%と、既に高い精度を示している。従来のMCI判定には前述のMMSEと血液検査のセットで検査されるが、検査の手間や費用がかさむうえ、予防ができないという課題があった。しかし、「D-Walk」の場合は日常生活の中で検知と予防を両立できるメリットがある。今後はインソールによるすり歩行の検知を加え、さらなる精度向上を図るという。

「D-Walk」のビジネスモデルは、小売りではなく保険会社への販売を検討。保険会社は顧客が認知症と診断された場合、一時金を支払う必要がある。しかし、「D-Walk」の導入によりMCIの早期検知と治療効果により、認知症により一時金支払いを大幅に削減可能であることが見込まれるため、保険会社には利益増をもたらすメリットがあるためだ。Team MJは保険会社の顧客で「D-Walk」を利用者一人あたりに月額500円の課金モデルを提案する。また、保険会社とのコラボで継続利用者には月額の保険料から100円値引きするなど、継続利用のインセンティブも用意する。利用者だけでなく提供する保険会社側にもメリットをもたらすプランだ。「D-Walk」は3年間の実証期間を設けて精度向上に努めた後、2026年から販売開始。1年間で黒字転換を見込む。

近年、社会的にも話題となっている認知症と介護の問題に、MCI段階の早期検知と予防を両立させた「D-Walk」。審査員からは利用の継続性などに指摘があったものの、5名全員が企業評価の意志表示を行う結果となった。審査員を代表して仁木氏は「一つの前提がずれるとビジネスモデルが揺らぐというものではなく、様々な検討を踏まえたうえでつくりあげたビジネスモデルであることが伝わってきた」と作品を絶賛。DCON2022出場チームで最後のプレゼンテーションを行ったTeam MJの高評価に、今後の審査結果への期待はより一層高まった。

全チームの作品が投資対象
混迷をきわめる企業賞の選定

全チームのプレゼンテーションを終えて、技術審査員の緒方氏は「今回はリアル開催。デモを見せてもらいながら説明をしてもらったのは印象深かった」と語る。その中でも沖縄高専 美ら海ペッ取ラーズを取り上げ「作品をペットボトルの回収は専門家でも難しい分野。透明なものをつかむということは技術的な難易度は高い。そういったものを果敢に挑んでいることに関心した」と評価した。

緒方氏が語るように、DCON2022の特徴は高い技術とビジネス性の両立であった。前大会も高専生の高い技術力に驚かされてきたが、事業性の面で一歩及ばず企業評価に進めないチームが散見された。しかし、DCON2022は全チームが企業評価の対象となった。その分、審査は混迷をきわめるものとなった。それは審査員による起業評価額の査定だけでなく、企業賞の選定でも同じことがいえた。審査時間は延長され、会場の緊張感は最高潮を迎えた。

結果発表は、まず企業賞の発表が行われた。前述の通り、企業賞の選定は「実はついさき程まで揉めていた」(ウエスタンデジタルジャパン プレジデント 小池淳義氏)というように、各作品の高いクオリティに、甲乙つけがたい状態であった。そのような中で、各企業はディープラーニングの活用の仕方やビジネス面での発展性に焦点を当てて選定している企業が多かった。また、自社の理念や事業に照らし合わせて選定している企業も見られ、さらには「できれば協業できる企業に賞を上げたいと思っていた」(丸井グループ 代表取締役社長 代表執行役員CEO 青井浩氏)と実際に協業を行うことを前提として選定する企業も見られた。

また、DCON2022からは新たに経済産業大臣賞、文部科学大臣賞が新設。前者は最も大きな市場に挑戦した作品、後者は最も技術的に優れた作品に贈られる。企業賞の後に発表が行われた。経済産業大臣賞は大島商船農業支援研究会に授与された。同賞の選定・発表を行った佐藤氏は「さまざまなテクノロジーを使っている点が評価できる。彼ら自身が生産者になる可能性があるという点も、時価総額を高くする余地となった」と説明。経済産業省の須賀千鶴氏は、選定された同チームを以下のように評した。

「チームも魅力的で、生産者に寄り添う姿勢も優しい。非の打ち所がないチーム。厳しいVCの方々との質疑応答にも感銘を受けた」

文部科学大臣賞は技術審査員を代表して緒方氏が発表。香川高専 のTutolaryに授与された。緒方は選定理由を「見守りシステムは既にあることにはある。しかし、特許をとって非常に安定したシステムを作り、プライバシーに考慮したシステムとしていることはすばらしい」と絶賛した。

前回を大幅に上回る結果に会場どよめく
上位3チームが起業評価額10億円

最終審査の結果で、どよめきが起きたのは3位が発表された時だった。

「第3位、佐世保高専 Iha_lab。企業評価額 10億円 投資額3億円!」

第3位の時点で起業評価額は前年優勝チームの6億円を遥かに上回る10億円。しかし、Iha_labの起業評価額が驚きをもって迎えられたのは、企業評価の意思表示を示した審査員が松本氏1名のみであったためだ。松本氏は審査結果について以下のように講評した。

「今年はスタートアップ元年と捉えている。世界に戦えることをテーマに評価をしなければならない。最初の出だしが大事なのではと思い、こういった評価額を査定した。技術的には非常に面白い」

DCONの難しさは、技術とともに事業性を迎える必要があるが、この松本氏の評価は、DCONにおける最も面白い点を示しているといえる。実社会に則したスタートアップへの投資を考慮して評価されるからこそ、1人の審査員に熱烈に支持されれば、大きな企業評価と投資額を獲得することができるのだ。

第2位を獲得したのは大島商船 大島商船農業支援研究会。起業評価額 10億円、投資額3億円と佐世保高専と起業評価額、投資額ともに同じであったが、審査員内での企業評価の意思表示を示した人数が上回ったため、2位となった。今回の査定を主導した松本氏は、以下のように講評した。

「農業というマーケットはとても大きく、グローバルでも課題の大きい業界。新たなテクノロジーを採用して世界に羽ばたける企業も増えてきている。そのような課題に対して的確にアプローチできている」

このような評価に、大島商船のメンバーも喜びの声をあげるとともに、感謝の言葉を述べた。

「非常にうれしい。ディープラーニングの開発から2年間構想を練ってきた。その過程で協力いただいた企業、メンター、教員の尽力があった。チームメンバーの一致団結した力があってこのような評価をいただけた。実用化を目指していきたい」

DCON2022で1位の栄冠を手にしたのは、一関高専 Team MJで企業評価額 10億円、投資額 5億円と査定された。起業評価額は2位、3位と同額であるが、投資額の面で他に大きく差をつけた。この講評も松本氏が行ったが、この結果は満場一致でのものだったようだ。

「技術的にも非常に面白い。ビジネスモデルまで完璧に考えているのは初めて。DCONのレベルを一段階上がったと思っている」

松本氏の発言のように、DCON2022は「DCONのレベルを一段階上げた」。これは会場にいたすべての者が感じた共通の感覚であったことだろう。結果発表をすべて終え、松尾氏は「非常にレベルの高いプレゼン。仮に松本氏がいなかったとしても、前回大会の評価額を越えていただろう。確実にレベルが上がっている」と語り、次のようにDCON2022を締めくくった。

「スタートアップはベンチャーキャピタルに一社気に入られればビジネスはできる。今回は松本氏がグローバルな視点から評価して高い評価額をつけてくれた。DCONは非常にファンが多く、認知も上がってきている。経済産業大臣賞や文部科学大臣賞もつけていただいたのは非常に光栄だ。高専生には非常に大きなポテンシャルがあると思っている。今年で高専制度は60周年。ディープラーニングやAIという新しい技術を使ったテクノロジーとともに、新しい展開となっている。社会が変化を拒絶するとなにも起こらない。私はこれからも、変化を起こす人を応援していきたい」

現に、DCON実行委員会は参加チームの起業を支援するため、「DCONスタートアップ応援基金(DSF)」を設立し、そこから既に4社が起業を成し遂げている。DCONはただのコンテストではなく、作品の社会実装を見据えた支援を行う。DCONの水準が上がるにつれて、出場チームの起業数は増えていくだろう。DCON2022は、高専生の作品が既に実現可能性を極限まで高める段階を迎え、どのチームが起業しても驚くことはないレベルに達したことを示した。次回以降、どのようなチーム、作品が出てくるのか、新たなステージを迎えたDCONには、今後も目を離すことはできない。

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