DCON2024の最新情報はこちら >>

高専DCON2022本選アフターレポート vol.1

Vol.2はこちら >>

高専生の日ごろの学習・研究の成果をベースとし、ディープラーニングを活用したビジネスアイデアを競うコンテスト「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)」。第3回となるDCON2022の本選は、例年以上に白熱の様相を見せていた。高専制度60周年を迎える今年、高専生が日ごろ培ってきた技術とアイデアの力が改めて示される結果となった。DCON2022の本選の模様を、前後編の2回にわたりレポートする。

待ちに待った待望のリアル開催
緊張と自信入り混じる本選会場

2022年4月29日。祝日で閑散とした東京・大手町のオフィス街。その一角に、ピリピリとした緊張感と熱気を帯びる場所があった。DCON2022本選が行われた、日本経済新聞社 東京本社だ。当日は本選に先立ち、カンファレンスルームで本選出場チームが作品を展示。午前中には既に多くの関係者とメディアがブースを訪れ、作品の説明に耳を傾けていた。会場内には、DCONをプレ大会の時から応援し続けている特別協賛企業をはじめ、各協賛企業トップの姿もあり、チームの作品に熱い視線を送っていた。

DCONは今回で3回目の開催となるが、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、メンバーの安全を最大限に考慮した結果、過去2回の本選はすべてリモート開催。このような展示を行うことも、この後のプレゼンテーションをリアルで行うことも、今回が初となる。

それぞれのブースに立つチームメンバーも、張り詰めた雰囲気を纏っている。しかし一方で、その表情には自信が滲む。これまでの試行錯誤、そしてメンターとともに重ねた努力を示す日が、ようやく訪れたのだ。そして、それらの集大成となる後の本選で、高専生たちは私たちの想像を遥かに凌駕する結果を叩き出すのであった。

本選会場となる日経ホールは、オープニング前から例年にない熱気を帯びていた。協賛企業、メディア、DCON運営、そして本選出場チーム、それぞれがこれまで以上の緊張感を持ち、そして期待を膨らませていた。開催の挨拶を述べたDCON実行委員長の東京大学大学院 松尾豊教授の言葉は、会場にいる全員の気持ちを代弁する。

「この2年間できなかったリアル開催。待ちに待った。回を重ねるごとにレベルアップする作品の質に、どれほど起業評価額が上がるかを期待している」

本選出場チームは10チーム、1次選考を通過した28チームの中から厳選された。DCON2022で初めて本選にチームを送り込んだ高専も3校あり、裾野は着々と広がりつつある。さらに注目を集めたのは、「起業チーム」の出場だ。

前回までのDCON本選に出場したチームは続々と起業し、作品の社会実装という新たなステージを歩んでいる。出場チームの起業はDCONの伝統だ。しかし、既に起業している高専チームの参加は初。本選出場の水準が底上げされていることは明白だった。

1.鳥羽商船高等専門学校 ezaki-lab 作品名:seenet
メンター:ブレインパッド 代表取締役社長 草野隆史氏

プレゼンテーションの順番は、本選の前日に発表された。最初のプレゼンテーションに選出されたのは鳥羽商船高専のezaki-lab。メンバーの面持ちには緊張があったが「トップバッター、やってやるという気持ちだ」と意気込みを語った。メンターの草野氏は、チームの特徴を「二泊三日で合宿して現場を学んだりと、作品に取り組む姿勢がとても熱心で、総合力のあるチーム」と評した。

ezaki-labは、ITの活用が遅れ生産性の改善が遅れている水産業の課題解決を提案。水産業は世界的には成長産業である一方、日本は減少傾向にある。その中でも、日本における総漁獲量87万トンの内、32%を占める定置網漁に着目。定置網漁は魚の回遊する場所にあらかじめ網を置き、魚を獲る漁法だが、網を上げるまで漁獲量が分からず、操業も市場に依存しているため、漁師の収入が不安定であるという問題点がある。

そこで、海洋観測器とディープラーニングを活用した定置網漁の支援システム「seenet」を開発。海洋観測機から得られる海象データや水中画像を元にディープラーニングを活用することで「魚の見える化」を実現した。

ezaki-labはブリの漁獲に用いられる大型定置網漁で実証実験を行った。過去10年分の漁獲量を教師データに用いて、検出モデルの最大誤差を2.8tにまで縮めた。また、漁獲量の予想を漁師や市場に事前連絡にはLINE Botを活用。漁獲量の予想は漁師には安定した操業と収益の向上を、市場には安定供給につながるメリットがある。さらに、漁業の効率化は海の生物多様性の保護にもつながる、まさに三方よしの作品を作り上げた。

最初でありながら、優れたビジネスモデルを発表したezaki-lab。審査員からの評価も高く、4人の審査員が企業評価への意思を表明した。審査員からは以下のような声が上がった。

「『seenet』は確実にニーズがある。ソナーのあったところにカメラを置くというのも分かりやすい」(東京大学エッジキャピタルパートナーズ 代表取締役社長CEO・マネージングパートナー 郷治友孝氏)

「LINE Botを活用しているというUI/UXを意識している点も評価できる」(iSGS インベストメントワークス 取締役/代表パートナー 佐藤真希子氏)

2.佐世保工業高等専門学校 iha_lab  作品名:OtodeMiru
メンター:connectome.design代表取締役社長 佐藤聡氏

「最初のメンタリングでは、メンバーが落ち着きすぎてて驚いた(笑) 理路整然としているが、一方で理屈っぽいところがあったので、逆に私がかき乱す側になることで、核ができたと思う」

メンターの佐藤氏がこのように述べるように、iha_labのメンバーは日経ホールの壇上でも落ち着きを見せていた。iha_lab こそが、先述の起業済みチームだ。DCON本選に先立つ2022年3月、メンバーの道上竣介さんを代表取締役とするwavelogy(東京・文京区)を起業。その作品とプレゼンテーションには、自ずと注目が集まった。

iha_labの作品「OtodeMiru」はディープラーニングを活用した森の音景解析システム。佐世保高専のある長崎県では、近年鹿やイノシシ、アライグマなどの害獣、スズメバチなどの害虫により農作物の被害や生態系の破壊が深刻化している。

駆除にあたり課題になっているのが、出現地や営巣場所の特定だ。「OtodeMiru」はディープラーニングを組み込んだセンシングデバイスにより、オンサイトでの生物音および環境音などを解析。LPWA(低消費電力・長距離の無線通信技術)による解析結果を収集するシステムだ。音の分類は31クラスで、その内の4クラス分のデータを作成し、高い精度を実現した。

「OtodeMiru」はレンタルビジネスで展開し、アウトプットはWebアプリ上で行う。害獣や害虫駆除業者や行政、環境調査を行う団体などをターゲットに、3年後の黒字化を目指す。森林の害虫・害獣駆除だけを見れば、ビジネス規模は小さい。しかし、音景解析には拡張性があり、さまざまなところで利用できる技術だ。将来的にはは活用領域を広め、地域に根付いた諸問題の解決に役立てられるという。

iha_labは実際に佐世保で害獣・害虫駆除を行う現場にもヒアリングを行い、優れたプレゼンテーションを行ったが、審査員からは厳しい質問・意見が続いた。既に起業しているチームであり、作品への目線は特にコスト面、収益化の面は特にシビアに向けられた。結局、企業評価の意思表示をしたのはただ一人。WiL 共同創業者/ジェネラル・パートナーの松本真尚氏だ。

松本氏は「ベンチャー投資は逆張も重要」としながらも、作品に用いる技術やビジネスモデルを高く評価。「テーマとする課題はとても大きい。コストを削減する要素もあり、想定しているスケールであればビジネスとしても十分に可能性がある」と判断し、iha_labの企業評価を単独で行うことを決めた。そして後の結果発表で、iha_labは会場にどよめきを起こすことになる。

3.豊田工業高等専門学校 早坂・大畑Lab 作品名:JOHS
メンター:RABO President & CEO伊豫 愉芸子氏

豊田高専は本選初出場。早坂・大畑Labのメンバーは「教員に巻き込まれて出場した。しかし、巻き込まれたからにはしっかりやろう」と語るが、メンバーにとって身近であり、しかも世界的にも深刻な課題をテーマとしたことで、強い思い入れを持った。今回の作品が取り扱うテーマは「熱中症」。メンターの伊豫氏は「熱中症の解決に熱中しすぎて、メンバーが熱中症になるほどだった」と語るように、その思いは、作品制作の過程を歩むごとに強まっていった。

早坂・大畑Labは、特に建設業や製造業で熱中症死亡者が多いことに着目し、現場の環境データと顔画像で熱中症リスクを判定する作品「JOHS」を開発した。熱中症対策で重要になるのが環境・生活習慣・行動の3点。しかし、生活習慣と行動で対策ができていないことに課題があった。「JOHS」では顔画像、環境のデータを2通りのディープラーニングで解析。顔画像から推論した行動や生活習慣と環境状況を組み合わせることにより、熱中症リスクを判定するソリューションを提案する。

「JOHS」のビジネス展開のポイントは、年間約21万件ある公共工事の現場への導入だ。初期ターゲットは大手ゼネコンを視野に入れ、長期的な現場を想定した買い切り型と短期的な現場を想定したリース型でサービス展開を行う。その後学校や福祉施設、製造業などへと販路を拡大し、6年目で売上高16億円を目標とする。

熱中症予防のソリューションは、現場作業員の生命にかかわる問題であると同時に、QOL向上に資するものだ。審査員からは「JOHS」の精度に関する質問が多く見られた。その中で、特に防塵マスクを着用している際の測定ができないこと、顔画像データの総量の不足、個人の顔画像データによる精度向上が課題視された。一方で、メンターの伊豫氏は熱中症対策に国の補正予算が組み込まれていることを補足しつつ「ありとあらゆる製品を組み合わせて熱中症対策が行われるが、『JOHS』はその一助を担うものだ」と強調した。

メンターの一押しもあり、企業評価の意思表示をしたのは2名。その内のひとり、ディープコア 代表取締役社長の仁木勝雅氏は「最後のメンターのサポートが良かった。市場規模に魅力を感じた」と評価。その一方で意思表示をしなかった審査員も、今後の改善に期待を寄せる。先端技術共創機構(ATAC)代表取締役 川上登福氏は次のようにエールを送った。

「計測の差分や個人差など、現場でのオペレーションに関して課題を残していると感じた。このような現場での運用という面に関して改善をしていけばより良い作品になると思う」

4.沼津工業高等専門学校 NagAI 作品名:IZanAI
メンター:フラー 代表取締役会長 渋谷修太氏

NagAI(ナガイ)はチームの「社長」の名前が由来。メンターの渋谷氏はメンバーを「AIの申し子だが、内に秘める情熱を持っている。作品のビジネスモデルを作り上げる中で、一度ピボット(事業の方向性を転換すること)を行ったが、こういった柔軟性は経営者としても見ていて楽しかった」と絶賛した。

そのようなNagAIが作品のテーマとしたのは「大型商業施設向けの駐車場の空きスペース」。大型商業施設では駐車場の混んでる場所と空いている場所がピンポイントで分からず、周辺道路を含めた交通渋滞や見通しの悪い交差点での交通事故など、様々な問題を抱えている。現状、施設側の対策は交通誘導員の雇用が行われているが、そこには年間数千万ものコストがかかっている。そこで、NagAIは大型商業施設における駐車誘導の効率化とコスト削減の両面を解決する作品「IZanAI」を開発した。

システムはエッジデバイスとクラウドを使用。駐車場に設置されたAIカメラと電光掲示板を用いて区画ごとに管理された空きスペースに車両を誘導する仕組みだ。空きスペースの数は、数字と色で直感的に分かるようにし、同時に駐車場内での対人事故の警戒も促せるようにした。また、AIカメラによる車両台数のデータ、ナンバーの認識などを行うことで、施設のリピーター率などのマーケティングに活用可能にしている。また、駐車場の空きスペースは電光掲示板だけの表示ではなく、スマートフォンでも知ることができるようにする。それに広告やクーポンなどのマーケティングの活用も可能なシステムへと発展させる予定だ。

将来的には、大型商業施設のみならず、小規模の飲食店にも適用可能にすることで、利用者を効率的に商業施設に「誘い」、オンラインショッピングに対抗する新しいUXを提供するという「IZanAI」。将来的には10億円規模のビジネスモデルの確立を目指す。

駐車誘導の効率化だけでなく、マーケティングへの活用やUI/UXも視野に入れたプレゼンテーションは、ビジネスとしての実現可能性も高いように思われる。審査員の佐藤氏からは「大型商業施設の駐車場だけではなく、青空駐車場のような場所の方が誘導員が車をさばききれず困ることがある。そのようなところにも対応は可能なのか?」という質問があったが、メンバーは「『IZanAI』は出入口にカメラを設置するだけでも成り立つシステム。雨風対応の掲示板を置くことも可能」と回答し、作品の柔軟性をアピールした。

一方で、審査員の目はNagAIのネックになっている部分を捉えていた。仁木氏は「大型商業施設にインタビューをしたことはあるのか?」という質問を投げかけたが、NagAIは施設側へのインタビューを試みていたものの、コロナ禍の情勢があり、それは叶わなかった。結果として2名が企業評価の意思表示を行った。「審査員としてはサービスに金を払う施設側の意見や気持ちを聞きたかった」という意見もあったが、郷治はその意見を踏まえつつも作品のビジネス性を評価。「商業施設へのプレゼンの際、メリットをよりハッキリ言えば、導入したい企業は多いと思う」とアドバイスを送った。

5.香川高専詫間キャンパス こんどる?  作品名:こんどる?-混雑情報発信システム-
メンター:17LIVE 代表取締役/Global CEO 小野裕史氏

香川高専詫間キャンパスは、3大会連続で本選出場チームを輩出するDCON常連校であり、今年はこんどる?を含め2チームが本選出場を決めた。過去に出場した2大会ではいずれも企業評価額が付く強豪でもある同校がどのような結果を出すのかにも注目が集まった。

チーム名を冠した作品「こんどる?-混雑情報発信システム-」は香川県の自治体から「駐車場の混雑状況を可視化してほしい」という要請を受けて開発したシステムで、すでに年商500万円の事業となっている。メンターの小野氏は「既にビジネス化している事業をより大きいスケールで紹介したい」と自信をのぞかせた。

「こんどる?-混雑情報発信システム-」はお店や駐車場の混雑状況をWebアプリを通してユーザーに提供するシステム。カメラで駐車場を撮影し、クラウドAIでカウントし、アプリからリアルタイムで確認できる仕組みだ。メンバーはこのシステムを起点として、より大きなスケールで事業を展開することを考えた。長所はスーパーマーケットや飲食店などへの展開を考えていたが、事業拡大に際して、あるYouTuberの動画がきっかけとなり、より大きな課題があることに気づいたという。

そのYouTuberとは、長距離トラックの運転手として働きながら、その日常を動画にする「あじとらチャンネル」だった。動画の中で長距離トラックの運転手は、休憩や食事などでパーキングエリアやコンビニなどの駐車場を利用するが、混雑で駐車できない場合もあることに気づかされた。さらに、路駐トラックは運転手にとって負担が多い一方で、安全性にも問題がある。メンバーは、このような業界問題の解決のために、作品をアップデートすることを決めた。

こんどる?の構想は全国のPA、コンビニにカメラを無料で設置することで、日本各地を走る運転手に対してリアルタイム・ピンポイントで情報提供を行う仕組みとする。収益源は運送会社との契約により、月額500円/人で提供を行うが、最初の2年間は無料で提供しデータを集める。2027年には売上35億、利益26億を目指し、サービスもトラックドライバーのための駐車場レンタルや休憩場所とシャワーの提供などを拡充する予定だ。

「こんどる?-混雑情報発信システム-」は既に事業化し、システムとしても高い精度を持っていいたものの、全国展開にあたっての資金調達や営業コストなどについて審査員からはシビアな質問が投げかけられた。企業評価の意思表示を示した審査員は2名。特に佐藤氏は、自社が出資する企業との親和性を見出し、その期待から企業評価の対象とした。

「私のファンドの出資者がまさに物流をやっている。ぜひつないでヒアリングしてほしい」

DCONはあくまで実社会でのビジネスを想定して、作品の審査が行われる。審査員は日本を代表するベンチャーキャピタルのトップが名を連ねている。本選出場チームはすべて投資対象として評価されるからこそ、審査員自身のビジネスとの親和性も考慮している。こんどる?のプレゼンテーションの一部始終は、DCONを象徴するシビアさが垣間見えた。

前半でプレゼンテーションを行った5チームすべてが企業評価の対象となり、第3回となり作品は技術だけでなく、各チームが描くビジネスモデルの質も大きく向上していることが伺えた。技術審査員を務める早稲田大学 尾形哲也教授は次のように講評した。

「確実に技術レベルが上がっている。作品の中にさりげなく先端技術を使っていて驚きながら見ている。ただ、前半のプレゼンテーションでも技術的なチャレンジの数と事業性の評価が比例しないことを痛感している」

競うのは作品が持つ事業性。技術の社会実装という高いハードルを、高専生たちは今まさに乗り越えようとしている。後半での5チームのプレゼンテーション、そして最終審査の結果発表で、出場チームはさらに私たちを驚かせることになる。DCON2022は、高専生たちの実力が私たちの想像を遥かに超えるものであることを、改めて気づかされるコンテストとなったのだ。

Vol.2はこちら >>

© DCON 2023