DCON2023レポート:養殖業からESG、ウェルビーイングまで広がる高専生の事業アイデア


2023年4月28日・29日、日本ディープラーニング協会が主催する「第4回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2023(DCON2023)」の本選が開催された。ハードウェアとソフトウェアの高いスキルを持ち合わせ、産業を変革していく高い可能性を秘めた高専生に注目を当て、事業案をベンチャー企業と見立てて、企業評価額を競うコンテストだ。
今回で開催は4回目。出場が常連となった高専も現れ、闘争心に燃える活気あふれる大会となった。

この記事では、「DCON2023」の様子をレポートしつつ、上位入賞チームの事業案を紹介していく。

全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)とは

ディープラーニングの注目が高まる中、DCONが注目するのはハードウェアとソフトウェアを組み合わせ、社会課題を解決することだ。技術や工学に特化した実践的な知識とスキルを有する高専生の可能性に注目し、ディープラーニングを活用したビジネスアイデアの「企業評価額」を競う。審査員は投資のプロであるベンチャーキャピタリストたちが務め、プロの視点でリアルな評価が下されるのが魅力だ。

「DCON2023」の審査員を務めたベンチャーキャピタリスト

「DCON」は単なる技術力を評価するだけではない。技術をアイデアに落とし込み、課題を解決し、事業として稼げるポテンシャルがあるかが厳しく審査される。

各チームには起業家などの事業立ち上げプロがメンターとしてサポートに入り、高専生は、技術力を磨くだけでなく、ユーザーの課題ヒアリングを磨いたり、市場規模をリサーチしたり、さまざまな観点でベンチャー企業の創業と同様のプロセスで事業案を磨いていく。

1日目には、日本ディープラーニング協会 理事長である松尾豊(東京大学)などの技術スペシャリストによる技術審査、2日目には大規模な会場でピッチが行われる。各ベンチャーキャピタリストは、それぞれのアイデアが、どれほどの企業評価額に値するのかを吟味し、企業評価額が最も高いチームが優勝となる。

技術審査の様子(日本ディープラーニング協会 理事長 松尾豊)
高専生によるピッチの様子(長岡工業高専)

「DCON 2023」には、計43チームからの応募があり、予選を勝ち抜いた10チームが本選に出場。海外から初の出場校(モンゴル科学技術大学付属高専)も生まれ、国際色も生まれる大会となった。

以下が最終結果だ。

「DCON 2023」TOP3の事業案を紹介

1位:大島商船高等専門学校/Smart Searcher 開発LAB「Smart Searcher NEO」

映えある1位に輝いたのは、大島商船高等専門学校 Smart Searcher 開発LABの「Smart Searcher NEO」だ。

養殖業界における生産性の向上と赤字解消を目指し、「Smart Searcher NEO」という餌やり水中ドローンのアイデアを発表した。

養殖業における問題点は、生け簀に餌をやる際の均等な配分が困難であり、個体の身体的な能力の差や餌やり方によって、いけす内の魚に均一に餌を与えることが難しいということだ。この問題により、魚の成長にバラつきが生じ、漁獲時のサイズも不均一になってしまっている。

この課題に対する事業案として、「Smart Searcher NEO」を提案。「Smart Searcher NEO」は、小さな鯛を検知し、その鯛の前で餌をやる水中ドローンである。この水中ドローンは、魚との距離感を利用し、魚の大きさだけでなく、色によって魚を判別することができる。これにより、餌やりの精度を向上させ、均等な成長を促すことが可能となり、養殖業界の収益性の低下という課題を解決する目的だ。

「Smart Searcher NEO」は、自動的に設定されたルートを飛行し、魚が検知された場所で餌をやるという機能も備えている。これにより、効率的かつ正確な餌やりが可能となり、魚の成長を最適化することが期待される。

2位:鳥羽商船高等専門学校/ezaki-lab「りぷら」

2位に輝いたのは鳥羽商船高等専門学校 ezaki-labの「りぷら」だ。

プラスチック製品の再生利用率向上を目指す事業だけでなく、技術力の高さが評価に繋がった。

プラスチック製品の再生利用率が低く、熱回収に頼る現状では環境汚染やプラスチック資源の枯渇が進んでいる。そこで、廃プラスチックを原料として新しい製品を作るマテリアルリサイクル技術の進展が求められている。しかし、プラスチックは種類が多く、それらを分別することが困難な課題があるという。

「りぷら」は、この分別の障壁を取り除くために開発された、スマホで簡単にプラスチックの分別ができるサービス。スマホアプリとアタッチメントから構成されており、アタッチメントをスマホに取り付けてプラスチックに当てることで、簡単にプラスチックの種類の判別が可能な装置だ。

「りぷら」は、特にプラスチックの主要な種類であるPEとPPの分別に重点を置いており、さらにPVCなどの分別を紛らわしくする要素にも対応。スマホが近赤外線を受信できる特性を利用し、従来の分別装置よりも手軽かつ安価に分別が可能だ。

この技術によって、プラスチックのリサイクルが容易になり、環境への負荷を軽減することが期待される。鳥羽商船高等専門学校 ezaki-labの取り組みは、持続可能な社会の実現に向けた一歩として注目される。

3位:一関工業高等専門学校/suzukiLab「働く現場のWB(Well being) monitor」

3位に輝いたのは一関工業高等専門学校 suzukiLabの「働く現場のWB(Well being) monitor」だ。

雇用者のメンタルをケアすることで人的資本経営を促進させる点などが評価された。

雇用者のメンタルケアは困難であり、精神疾患を患ってしまう人や、退職に追い込まれてしまう人などが増加している。社会的な課題として認識されつつも、メンタルの問題による雇用者の退職や体調不良などに対策を講じることは難しいとされ、多くの企業は人材マネジメントに尽力しているものの、効果が上がらないことも多い。

「働く現場のWB monitor」は、この課題に対する解決策として開発された。このデバイスは、首筋にプローブを装着し、ヘモグロビン濃度を測定することによって、雇用者のメンタル状態を管理するというもの。

※プローブ:測定や実験のために測定物に接触する針

やる気や達成感を感じると、ドーパミンと呼ばれる物質が排出され、ヘモグロビン量が増加する。「働く現場のWB monitor」は、血管の容積からヘモグロビンの量を予測する測定機で、この装置を使用することで雇用者のメンタル状態を定量的に管理することが可能だという。

「技術をビジネスに落とし込む難しさ」|ピポットを決断したチームたち

「DCON 2023」で目立ったのは各チームが技術をビジネスに昇華させる難しさを語っていた点だ。

DCONでは、本線に挑むチームにメンターが参画し、技術の事業化を支援する。JDLAの理事を含む事業作りのプロであるメンターはオンラインでのミーティングに加え、時には高専にも足を運び、実事業レベルまでアイデアの具現化をサポートしている。

各チームがピッチで強調していたのは、各産業の市場規模。技術をビジネスに展開する前に、市場の需要と一致するのか、丁寧に確認する必要がある。技術自体が優れていても、市場がそれを求めていない場合はビジネス成功の可能性が低くなってしまうからだ。需要調査や市場分析を行い、事業化の可能性を評価することが重要である。

また、技術をビジネスに落とし込むためには、収益モデルやビジネスプランの策定も重要だ。技術の提供方法、市場の獲得方法などを考慮し、長期的に成長できるビジネスモデルを構築する必要がある。各チームは、今後数年間に渡る収支計画も発表し、市場機会の獲得も視野に入れたプレゼンになっていたことが特徴だ。

日本ディープラーニング協会、理事長 松尾は「事業を当てにきている」と、ビジネスとしてのレベルの高さを大きく評価したが、裏には高専生の大きな決断があった。

日本ディープラーニング協会 理事長 松尾豊 コメント

「ビジネスを理解した上で、事業を当てにきているチームが増えている点が多く、質がかなり上がってきていると思います。物体検出から、データの拡張まで当たり前に行われるようになり、それを自分たちのハードウェアをどのように組み合わせるのかに注力していて、ディープラーニングを使いこなしていると感じます。ハードウェアとディープラーニングのコラボをビジネスへの持っていくレベルの高さに驚きました。「DCON 2023」では、審査員から競合など市場環境に対する質問が多くされたこともあり、来年は、さらにレベルが一段上がってくると思っていて、楽しみにしています。

ChatGPTのような大規模言語モデルと音声認識やシステムへの入力など組み合わせたビジネスは伸び代があり、来年の作品に期待できる部分だと思います。また、大規模言語モデルで、実世界のロボットや映像などに扱う技術も発展しており、高専生が持つハードウェア技術との組み合わせが楽しみです。」

大島商船高等専門学校 Smart Searcher 開発LABチームコメント

「1位の評価をいただいて、チームメンバーだけでなく先生やメンターのみなさんに感謝したいです。最も大変だったのは、1ヶ月前にピポットをしたことです。技術的には可能とわかっていても、お金の計算に疎く、出口が見えづらかったり、プレゼンの作成など複数の作業を同時に行わなくてはならず、不安が連鎖していました。ピポットする前は海洋ゴミの回収システムを作っていたのですが、市場規模が小さく、ビジネスを見据えられていない、評価を受けられないと考え、市場規模が大きい養殖業にピポットしました。今後は、企業の選択肢に研究を行っていきたいです。」

Smart Searcher 開発LABチーム メンター 岩佐 琢磨(株式会社Shiftall代表取締役CEO)コメント

「長く経営者をやっていると、ピポットの決断はしやすいと思いますが、若いチームであればあるほど、やってきたことを壊すことって怖いと思います。若いうちにピポットを経験できたのは、彼らのこれからの糧になっていくと思います。

元々の事業は海洋ゴミを対象にしていていたのですが、市場規模などを考えて、ピポットしようと話したんです。そうしたら今回のDCONでは、プラスチックゴミを対象にした事業が高い評価を受けていて、ピポットしない方がよかったかな?と焦りましたね。笑

なんとか最後、優勝できてホッとしましたね。」

さいごに

ディープラーニングの可能性は他の技術と組み合わさってこそ最大化される。高専生が持つ高いハードウェアのスキルとディープラーニングが組み合わさることによって、インターネットサービスだけでなく、さまざまな市場で変革が広がっていくことが予想される。

日本国内では一次産業の人手不足、インフラの老朽化など、対処しなくてはならない課題が山積しており、人の手だけで対処しきれないのが現状だ。ハードウェアとの融合により、各産業が変革していくうねりを生み出すのが「DCON」だ。

ChatGPTをはじめとした大規模言語モデルの可能性も大きい。音声、映像、システムへの入力などに対処できるマルチモーダルなAIの実現も視野に入っており、さらにハードウェアとの融合の可能性が拡大していくと予想される。

AI分野の加熱が止まらない2023年。2024年に向けてどんなチームが新しく生まれ、どんなユニークなアイデアが生まれていくのか。今後のDCONの展開にも注目して欲しい。