
2026年もゴールデンウィーク明けの5月8日・9日に、東京・渋谷区の渋谷ヒカリエで開催された「第7回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2026(DCON2026)」。
年々増えるエントリーはついに119作品となり、8高専10チームが本選へ出場した。2日目のプレゼンテーション審査では、例年より席数を増やしたにも関わらず会場がほぼ満員となるなど、これまで以上に熱量の高い大会となった。その中で、栄えある最優秀賞に輝いたのは豊田工業高等専門学校の「Kanro AI」が開発した、下水道自動点検ロボット『Pipe Eye』。VCも驚く「AI時代にマッチした、珍しいビジネスモデル」が評価され、企業評価額は5憶6000万円となった。最優秀賞をはじめすぐにでも事業化できそうな作品が目立った今大会。会場の様子を記事でお届けする。
日本のフィジカルAI時代の草分け「DCON」への理解広がる
高専生が「ディープラーニング技術」にハードウェアやソフトウェアを掛け合わせ、課題を解決する事業を考案し、技術面とビジネス面での評価を競うDCON。
ジェンスン・フアン(NVIDIA CEO) の発言で「フィジカルAI」が注目された前回大会・DCON2025から1年。その重要性がより社会に浸透する中で開催された今大会は、DCONへの理解が進んだように見受けられるシーンが相次いだ。
何より驚かされたのは高専生と名刺交換する企業の数だ。パネルや作品を展示したブースでは、いつも以上に名刺交換が繰り広げられ、開発したプロダクトや事業についての質問が飛び交った。参加した企業関係者らが高専生を一学生ではなく、国内屈指の一技術者として対等に見てのことだろう。
高専生や起業への注目が集まる前、2019年から続けてきたDCON。高専生の技術力への理解が徐々に社会に浸透し、注目が高まっていることが分かる。

「会話」に着目した事業案が複数登場
生成AIが広く普及したこともあってか、大規模言語モデルを組み込んだプロダクトを一般人が活用する事業案が例年より多かった今大会。
沖縄工業高等専門学校の「Omoide.lab」は、病院の診察だけでは見抜くことが難しい認知症の進行度を可視化するデバイス『VocaSense 〜声の揺らぎが知らせる認知症のサイン〜』を紹介。リビングに置くことで日常会話から発話者の変化を捉えることが可能だという。
開校以来、今回が初出場となった神山まるごと高専の「codell」は、介護施設の利用者情報をその場で職員が共有できるARグラス『KiDUKi』を披露。利用者と職員の会話や画像をリアルタイムで解析し、職員が装着するARグラスに必要な情報が表示される仕組みだ。

さらに会場が沸いたのが、舞鶴工業高等専門学校「mAIzuru」による、盆栽と「会話」しながら育成できる次世代IoTデバイス『ことの葉』だ。盆栽愛に満ちたチームが考案したビジネスプランに、VCから「課金額を増やすと何ができるようになるのか」と聞かれたリーダーは「今日の晩御飯の相談や、人生相談もできる」と熱弁。会場はどっと沸いた。
社会課題を起点にした作品ではなく、盆栽への興味関心をきっかけに開発をスタートした本事業案。それでも海外の盆栽愛好家からコメントをもらうなど協力者を増やすことができたチームについて、メンターの佐藤聡氏は「自分たちの好きを追いかけた先にできた素敵なプロダクト」だとチームの魅力を語った。利益や技術だけで事業案を作らないチームの活躍が見られるのもDCONの面白さだ。

うっかり「御社」と呼ぶほど実践的な事業案をVCが真剣評価
技術審査員の早稲田大学教授・尾形哲也氏からも「今年(評価が)厳しくないですか」という発言が飛び出すなど、厳しい評価が多かった今大会。
危険を察知すると手元のバイブレーションで教えてくれるAI搭載シルバーカー『あゆみ』を披露した久留米工業高等専門学校の「Atelier-I」のピッチは好評で質疑応答も盛り上がったが、上がった投資の札が一つだったことで、どよめきが起きた。

また、カメラ画像の解析によって飲食店のオペレーションを分析できる『Gourmeet』を提案した沼津工業高等専門学校の「SOUTA」や、仙台高等専門学校広瀬キャンパス「Nego Delivery」のマンション配送をAIと自動配送ロボを活用して円滑にする『それいけ!運搬マン』も札一つと手厳しかった。

一方で、高専生に対して「御社」と呼び間違えるVC審査員が相次ぐなど、事業案が一般企業のようなリアリティある内容だったことから、VCの評価スタンスもいつも以上に力がこもっていた。
そんな中、3位に輝いたのは沖縄工業高等専門学校「Seesar Labs」の、初期消火を行う地上走行型ロボット『HIKES』だ。
3位:沖縄工業高等専門学校 / Seesar Labs
地元の観光資源であり象徴であった首里城が、火事により一瞬にして消失し、今なお復元できていない状況から初期消火に特化した事業を考案したという。

チームは、実際にピッチでデモンストレーションを披露。AIカメラが火災を早期発見し位置を特定すると、消化ユニットを搭載した四足歩行型ロボットが現場に駆けつけた。可愛らしいフォルムからの力強い消化活動に会場からは拍手が起きた。
MPower Partners Fund L.P.の関美和氏は、導入ターゲットをスプリンクラーのない小型倉庫としている点や、大手企業との協業が進んでいる点を評価した。
受賞後の気持ちを問われたチームは「3位かという悔しい気持ちがある」と正直な思いを吐露。一方で「評価額をつけていただいたことで、価値があることをやってきたと今実感できた」と語った。

2位:沖縄工業高等専門学校 / Rewave
次点となったのは3位と同じく沖縄工業高等専門学校の「Rewave」が開発した『通信の空白地帯を消す!AIで被災地を可視化する災害デバイス「アドフォン」』だ。
今大会、沖縄工業高等専門学校からは本選に3チームが出場。さらには2チームに評価額がつき、2位3位にランクインするなど大活躍だった。

「Rewave」が開発しているのは、災害時などでネットワークが断絶した環境でも、小型デバイスをスマートフォンに外付けすることで端末間で直接通信することができる『アドフォン』。通信ができるだけでなく、端末間でリアルな情報を共有することでデマ情報を排除することも可能だ。すでに地元の小学校などでも実験済みで、「防災減災コンテスト2025年」の文部科学大臣賞をはじめ数々の賞を受賞している。
iSGSインベストメントワークスの佐藤真希子氏は「災害大国日本において、通信環境を国産でどう作るかは課題。デマもどうにかしないといけない問題。そのどちらも解決し、情報を正確に速く取得できると提案してくれたことにワクワクした」と語った。
チームは「将来的に日本の経済や防災を守れるような製品にできるように、DCON協賛企業とも協力して良いものを作りたい」と次を見据えた。

インフラ検査ロボが最優秀賞、珍しいマネタイズに注目集まる
1位:豊田工業高等専門学校 / Kanro AI
最優秀賞を手にしたのは、豊田工業高等専門学校「Kanro AI」が開発した下水道の自動点検ロボット『Pipe Eye』。昨年に引き続き今年も豊田工業高等専門学校に優勝旗がもたらされた。

上下水道局の職員から「点検作業や資料作成に時間がかかる」といった業務内容を聞いたリーダーが「高専で学ぶ技術を応用すれば業務軽減できるのではないか」と思ったことから開発を開始。ロボットに搭載したAIカメラの画像をリアルタイムで解析し、AIで資料作成。コストを80%も削減できるという。

豊田市などの協力もあり、実際の下水管で実証を行い有用性は織り込み済み。全国で下水道点検の民間委託が進んでいることや、どの自治体でも点検距離に応じて費用が支払われることから、点検すればするほど売上が積み上がる珍しいマネタイズモデルに、ピッチ終了後には審査員全員が投資の札をあげた。
今大会でVCの投資札が全て上がった唯一のチームだったが、それでも不安はあったのかもしれない。1位で名前が呼ばれるとリーダーは大きくガッツポーズした。

審査員であり株式会社WiLの松本真尚氏は、「持ち株比率まで考えた」と自身がつけた評価額はリアリティある価格だと強調。また「トークンで課金するAIビジネスは使うほど課金されるため、ID課金のSaaSと比べて時価総額が桁違いに高い。(豊田高専「Kanro AI」が開発した『Pipe Eye』も)点検した距離がメーター単位で課金されるので、最初にハードウェアをしっかり作り、いかに多く使用してもらうかが事業としての根幹。AI時代にマッチした非常に珍しい事業モデルだと思う」とし、「ちゃんと起業してください」とチームの背中を押した。

リーダーは「この1年間、5人で資料を作り、ハードウェアを作り、現場にも通った。それが伝わり評価してもらえ非常に嬉しい。プロトタイプの完成を目指したい」と語った。
メンター:フラー株式会社 取締役会長 渋谷 修太 氏
メンターを務めた渋谷氏は当初ピッチを聞いた際はマネタイズ方法が見いだせなかったという。「正直どこがビジネスになるんだろうと。しかし彼らが現場へのヒアリングを重ねるうちに、メーター単位で料金が支払われていることや、民営化が進んでいることが分かり、『これは事業として成立するぞ!』と伴走していてとても面白かった」。
またチームについて「アドバイスするとフィードバックが非常に速く、成長率が凄まじかった。1位になれたのは彼らの実力」と褒め称えた。
本選出場チーム以外にもチャンスを!新たな賞が新設
さらに今大会からは、二次審査(面談選考)を通過できなかったチームにも、審査員や一般参加者の投票により決定する「特別展示賞」と「オーディエンス賞」が創設されることに。
二次審査(面談選考)の時点ではプロダクトが完成していなかったり、ビジネスモデルが見えなかったりする事業案でも、本選までにピボットなどを繰り返すことで伸びるケースが多く、例年ポスター展示の作品も強豪揃いだった。出場する高専生にとっては朗報だ。

投票の結果、初の受賞には以下のチームが輝いた。
<特別展示賞>
| No | 学校名 | チーム名 | 作品名 |
|---|---|---|---|
| 1 | 釧路工業高等専門学校 | NeuroLogic | IntelliTorque |
| 2 | 一関工業高等専門学校 | Innodroid | Vetra |
| 3 | 沼津工業高等専門学校 | アニマルセーフAI | びみとん |
| 4 | 沖縄工業高等専門学校 | NAKAHI.lab | 脳に「良い姿勢」を再学習させる行動変容支援デバイス RelaNeck |
| 5 | タイ高等専門学校 KOSEN-KMITL | th.ai | EfficientCool |
| 6 | タイ高等専門学校 KOSEN-KMITL | DEEPression | サインゴ(SignGo) |
<オーディエンス賞>
| No | 学校名 | チーム名 | 作品名 |
|---|---|---|---|
| 1 | 釧路工業高等専門学校 | NeuroLogic | IntelliTorque |
| 2 | 群馬工業高等専門学校 | ぐんまちゃん | Dr.Cube -思考を止めない、発想支援ツール- |
| 3 | 沼津工業高等専門学校 | アニマルセーフAI | びみとん |
| 4 | 神山まるごと高等専門学校 | KAUELU | Shoppy |
釧路工業高等専門学校の「NeuroLogic」と沼津工業高等専門学校「アニマルセーフAI」はオーディエンス賞と特別展示賞のダブル受賞。また、タイ高専KMITLは2チームが入賞する結果となった。
「DCONノウハウを高専全体で共有したい」
鋭く手厳しい審査が続いた今大会。DCON実行委員会 実行委員長の松尾豊(東京大学大学院工学系研究科 教授)は審査員がシビアな理由について「現在は投資の大半がAIに関するものになっており、VCも相当目が肥えているため厳しかったと思う」と説明。「事業の競合も含めて調査をしっかりできているか、現場の実情をいかに理解できているかが勝敗を分けた大会だった」と振り返った。

また、「上位チームはビジネス的に見ても文句のつけようがない」とし、これまでの大会と比べ「高専生が社会情勢の変化や法律の変化を捉えてビジネスを作れるようになっている。ノウハウを高専全体で共有することでより高いレベルでの事業開発が可能になり、高専生のポテンシャルを社会にうまく落としこめるのでは」と期待を寄せた。
フィジカルAI時代を牽引する高専
技術を実践的に学ぶ高専。松尾は「高専生は試行錯誤を繰り返すなど行動力が高い。実践型教育はAI時代にあっているのではないか」とも話す。

フィジカルAI元年と言われる今年。これまでプレ大会も含め8年にわたり、事業アイデアを出し続け、日本のフィジカルAIを牽引してきたDCONの注目度は格段に上がっていた。参加者数やスポンサー社数はもちろん、周囲の熱量や視線の真剣度合いがこれまでと比べて群を抜くほどであったと言っていいだろう。
ただ、そんな中にあって当の高専生たちは、日々淡々と学び、技術力に磨きをかけている。昨日よりも今日、今日より明日と改善を積み重ねていく彼ら・彼女らのブレない強さこそが、このDCONの魅力だ。年に一度の集大成として成果を報告するこの機会への注目の高まりを強く感じた今大会だった。
この記事を書いた人:山田みかん
プロフィール:
元テレビ記者。高専OBの起業家と出会い「高専の魅力」を発信したいと独立。現在は高専OBOGや高専教諭にアドバイスをもらいながら、報道機関のDXシステムを開発している。